宇治橋三の間より

謡蹟めぐり  春栄 しゅんえい

ストーリー

増尾の春栄は宇治の合戦の際に囚の身となって伊豆三島の囚人奉行高橋権頭家次の陣屋につながれています。家次は春栄が自分の死んだ息子に似ているので養子にしたいと考えますが既に斬罪の判決が下っていて今は刑の執行を待つばかりです。
そうしたある日、春栄の兄増尾太郎種直が家次の館を訪ね、春栄に面会を申し入れます。春栄は兄の来訪を喜びますが、肉親と知れては同罪になると恐れて、家来の者だと言い張ります。兄は弟と一緒に殺される覚悟で来たので、それでは情けないと言って腹を切ろうとします。ここに至って春栄も翻心し互いに名乗りあいます。
委細を見ていた権頭は兄弟愛に涙を催します。そして種直に自分が春栄を貰いうけたい由を話していると、鎌倉から囚人の断罪を命じられ、すわや最期と覚悟していると、再び鎌倉より赦免が伝えられ、一同は喜び種直は舞を舞い、春栄は家次の養子となって共に鎌倉に立ち出でます。(「宝生の能」平成 10年12月号より)

三島大社  静岡県三島市  (平8・8記)

本曲の舞台は伊豆国三島となっている。
「謡曲大観」によれば、本曲に登場する「春栄丸」「高橋権頭家次」「増尾太郎種直」などの人物は実在の人ではなく、本曲も架空の物語のようである。
しかし、この曲は鎌倉時代を背景としており、鎌倉時代には三島大社に接する一帯に国府があったようである。本曲にも「名にのみ聞きし伊豆の国府、三嶋の里に着きにけり・・」とあり、また高橋権頭家次は三島で囚人の奉行をしていたとあるから、国府の役人であったと思われる。従って本曲の舞台は国府あたりと思われるが、現在国府址を示す遺物は何も残っていないようである。
また、三島大社については、本曲にも「古郷を去って伊豆の国府、南無や三嶋の明神・・」「伊豆の三嶋の神風も吹き治むべき代の始め・・」「三嶋の宮の御利生とふし拝み・・」等と何回も引用されており、本曲の舞台と考えることもできるので写真を掲げてみた。

三島大社 三島大社 静岡県三島市 (平7.3) 本曲の舞台とも考えられる

宇治橋に立つ  宇治市  (平8・8記)

春栄は宇治橋の合戦で生け捕られたとあるが、曲中に「鎌倉よりの早打なり」などの言葉があるのをみると、この合戦は義仲と範頼・義経の合戦を想定したものと思われる。 宇治橋に立って川下を見ると、流れも早く水量も豊かな宇治川の中央には橘島を配した素晴らしい景観が拡がり、この川を挟んで昔から何回となく戦いが繰り広げられたなどとても想像できない。

しかし、この川の右手にある平等院には頼政が平家に討たれて自刃した跡という「扇の芝」があり、橘島には「宇治川先陣の碑」が建てられていて往時を偲ばせてくれる。この先陣争いでは名馬「するすみ」に乗った梶原景季と、名馬「いけづき」に乗った佐々木高綱が争い、先陣は高綱がとり、義経軍が一斉に渡河して義仲軍を打ち破ったのであるが、本曲の春栄は義仲軍としてこの合戦に参加し、生け捕りになったものであろう。

宇治橋には中央に2メートルほど張り出した所があり、三の間と呼ばれている。古い時代、始めて宇治橋をかけるにあたって、宇治川上流に鎮座していた瀬織津比めの尊を橋上に奉祀したが、それ以来世に橋姫の神と唱えられるに至った。三の間と称するのはその鎮座の跡であるという。後に宇治橋の西詰の地に移し、住吉神社とともに祀られ、橋姫神社として現在に至っている。

今から約400年前、豊臣秀吉が伏見桃山城にいた時、しばしば宇治へ視察に訪れ、橋のたもとにある通円茶屋という所で休息したが、その時差し上げたお茶がことのほか御意にかなった。主人より宇治川の水を使用した由を聞き、早速に千利休に命じ「三の間」より汲み上げるための特別の釣瓶を造らせた。橋守十一代通円をして宇治橋三の間より汲み上げる役を仰せつけられ、秀吉はその水を茶の湯に使われたという。

宇治はまた源氏物語の舞台ともなっている。ことに「宇治十帖」と称される最後の十巻は、随一の主人公光源氏亡きあと、その子薫と孫匂宮という二人の男性に、落魄した八宮の姫君三人がめぐる恋がたり。主なる背景を宇治にすえ、艶やかさにもまして、いっそう哀しい恋のさやあてがしっとりと繰り広げられる。「橋姫」「椎本」「総角あげまき」「早蕨」「宿木やどりき」「東屋あづまや」「浮舟」「蜻蛉かげろう」「手習」「夢浮橋」と、それぞれの巻について碑が建てられ、散策できるように配慮されている。全部を廻ってみたが、その詳細は「源氏供養」の項を参照願いたい。

宇治橋 宇治橋 宇治市 (平8.4) 春栄は宇治橋の合戦で生け捕られた

宇治橋と三の間 宇治橋と三の間 宇治市 (平8.4) 橋の中央に2メートルほど張り出しているのが三の間

宇治橋三の間より 宇治橋三の間より川下を望む 宇治市 (平8.4) 川下に見えるのが橘島、先陣の碑が立っている

宇治川先陣の碑 宇治川先陣の碑 宇治市橘島 (平8.4)

橋姫神社 橋姫神社 宇治市宇治川西詰 (平8.4)


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