寝覚めの床

謡蹟めぐり  飛雲 ひうん

ストーリー

紀州三熊野の山伏が、出羽の国羽黒山に参ろうと思い立ち、木曽の山路にさしかかり、紅葉の木陰で、一休みしているところに、この里の人とも思われる老人が、柴を負うて通りかかり、これも同じように色なす紅葉の下に薪をおろして休むのであった。
その様子が如何にも風流げなので、山伏は何くれと老人に言葉をかけて共に紅葉を賞し、老人は花の陰に休む山人を詠んだ黒主の心などを語り、名所物語など語り合った後、今宵ここで紅葉を敷いて一夜を明かし給うならば、自分もまた、ここに帰って来て夜遊を慰め申そうと告げ、そのまま谷深く立ち去った。
山伏は老人の言葉に従って木陰で眠りにつくと、夢の中で神の告げを得て身の危険を覚えたが、夜更けて行方もないので、此処で祈念していると、不思議にも峨々たる岩根にひとむらの黒雲が立ち上がるとみる間に、嶺も谷も一度に震動して嵐を起こして物凄く、たちまち鬼神が姿を現して来た。山伏は一心に悪魔降伏の祈りをなしたので、遂に鬼神は通力を失い、茫然としてただよい行くとみるうちに、黒煙の中に遂にその姿は消え失せた。(「謡本」を意訳)

木曽の桟橋(かけはし) 長野県上松町 (平成19・5記)

場所は木曽山中とあるだけであるが、文中に「木曽の桟橋(かけはし)谷深み」とあるので、このあたりで柴を背にした老人のきこりに出会ったのであろうか。
「兼平」の項でも取り上げたが、木曽の桟橋は、けわしい崖に橋をかけ、わずかに道路を開いたもので、岩の間に丸太と板を組み、藤づる等でゆわえた桟だったという。木曽路最大の難所であった。

木曽かけはし 木曽の桟橋 (平9.7)

寝覚めの床 長野県上松町寝覚 (平19・5記)

木曽の桟橋から木曽路を南へ5キロほど行った所に「寝覚めの床」がある。木曽川の流れが花崗岩の奇石を縫って流れ、木曽路随一の絶景とされる。寝覚めの床を眺めおろす臨川寺には浦島太郎伝説に関するさまざまの資料が展示されている。他流には「寝覚」という曲がある。

寝覚めの床 寝覚めの床 (平7.10)

鳥居峠 長野県木祖村、楢川村 (平19・5記)

木曽桟橋から木曽路を北に向うと、木祖村と楢川村の境が鳥居峠となっている。ここも往時は木曽路の難所だったというが、現在は坦々たる国道で一気にトンネルで通り抜けてしまう。峠の途中に大きな壁画があったので、車を止めてカメラにおさめてた。往時の峠越えの有様を描いたものである。

鳥井峠 鳥居峠の壁画 (平9.7)

木曽路の碑 長野県楢川村贄川 (平19・5記)

中山道を楢川村から塩尻市に入る手前に「是より南 木曽路」と書かれた碑が立っている。本曲の山伏も、難を逃れてこのあたりを通って出羽の羽黒山に向ったことであろう。

木曽路碑 「是より南 木曽路」碑 (平9.7)


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