小町姿見の井戸

謡蹟めぐり  草紙洗1 そうしあらい

ストーリー

宮中での御歌合わせの会に、大伴黒主の相手は小野小町と決まりました。詠歌でかなわないと思った黒主は、前夜小町の家に忍び入り、小町が明日吟ずる歌を盗み聞き、それを万葉の草子に書き入れておきます。
翌日、清涼殿の御歌会には、帝をはじめ、紀貫之や男女の歌人が居並びます。いよいよ小町の歌が披露されると、黒主は、その歌は万葉の古歌であると抗議し、証拠にと、昨夜書き込みをした草子を示します。小町は帝の御前なので争うことができずに悲しみ、せめて黒主の出した草子を洗わせてほしいと願います。帝の許しを得て洗ってみると、小町の一首だけが消え失せ、黒主の入れ筆であることが露見し、小町の潔白が証明されます。黒主は自害しようとしますが小町の取りなしで帝も許され、めでたい雰囲気となり、小町は勧められて和歌の徳を讃えた舞を舞います。(「宝生の能」平成11年5月号より)

小野小町関連の謡蹟         (平16・2記)

小野小町に関連する私が訪ねた謡蹟については「通小町」「関寺小町」「鸚鵡小町」の項にも掲げているので参照願いたいが、「草紙洗」に関係深いものや、その後訪ねたものを掲げてみる。

京都御所 京都市上京区

本曲後段の舞台は内裏すなわち御所の清涼殿である。
延暦13年(794)、桓武天皇による平安遷都から明治2年(1869)の東京奠都まで、1075年の長い間、京都は皇城の地であった。平安京の大内裏に、紫宸殿を正殿とする内裏があり、焼亡と再建を繰り返しつつ、造営が成るまでの一時的な皇居として里内裏が幾つかできてきた。
現在の京都御所は里内裏の一つであった土御門東洞院殿が、これも焼失と再建の間に発展的に拡張されてきたもので、平安京の内裏よりは東に2キロ近く離れた所に位置する。
元弘元年(1331)、光厳天皇が土御門東洞院殿で即位され、以来この里内裏は皇居として定着した。おおまかな言い方をすれば平安京の歴史の後半500数十年は現在の京都御所が皇居であった。

この曲は平安朝における御歌合わせであるから、本当の場所は現在の京都御所とは関係ない。しかし現在の京都御所にも清涼殿があり、御溝水(みかわみず)もあり、往時を想像することはできる。ただし、御溝水は「みかは水の清き流れを掬びあげ・・」と謡われるように清いものではなく、コンクリートで固められた堀に水がたまっている程度でとても草紙を洗えるようなものではない。

京都御所と同じく隣接する仙洞御所も参観するには手続きが必要で、まだ参観していないが、京都御所参観時に入手したガイドブックによると、ここには「草紙洗いの石」があり、この平らな石の上で料紙を池水に浸したと伝えられる。また、本曲にも関係ある柿本人麿の邸宅跡と記される石碑や柿本人麿を祀る小社もある旨記されている。

京都御所 京都御所 京都市上京区 (平5.9)

清涼殿 清涼殿  京都御所 (平8.4)

御溝水 御溝水  京都御所 (平8.4)

小野小町草紙洗水遺跡 京都市上京区

平安時代の御所があったと見られる、上京区一条戻橋東方の町角に「小野小町草紙洗水遺跡」と刻まれた小さな石の標識がある。これを見つけるのに大変苦労したことを思い出す。戻橋東方の町角だけを頼りに自転車であちこち走り廻ったがなかなか見つからない。土地の人にも4、5人尋ねたが皆知らないという。幸いお年寄りの方が通りかかったので、尋ねるとあの町角の工事をしている所だという。早速近づいてみると工事中の標識の蔭に隠れているのが見つかった。これでは何回通っても分からない訳である。工事中の方にお願いして、標識を一時動かしてもらい、写真を撮らせていただいた。

草紙洗水跡 小野小町草紙洗水跡碑 京都市上京区一条 (平5.9)

小町の墓、法輪寺、小町姿見の井戸   岡山県

岡山県清音村黒田は小町の生誕地で備中守小野常澄の娘という。晩年この地に戻りここで没したといい、山道の傍らに小町の墓がある。
清音村隣接の倉敷市羽島の日間薬師(日間山法輪寺)は、小町が瘡を病んでおりその治癒を祈ったといわれている。法輪寺の裏の山には、そのとき小野小町が毎日姿を写してみたという小町姿見の井戸が今に残されている。

小町の墓岡山県 小野小町の墓 岡山県清音村黒田 (平9.9)

法輪寺岡山 日間薬師(法輪寺) 倉敷市羽島 (平9.9)

小町姿見の井戸 小野小町姿見の井戸 倉敷市羽島 (平9.9)

小町神社、小野小町のと墓  鳥取県岸本町

鳥取県岸本町の小町という地区には小町神社があり、少し離れて小町の墓という五輪の塔がある。五輪塔の一番上の石と、二番目の石とをこすり合わせてできた石粉を顔につけると美人になると言われているとか。

小野神社 小町神社 鳥取県岸本町小町 (平9.9)

小町の墓岡山県 小野小町の墓 鳥取県岸本町小町 (平9.9)

上村松園「草紙洗小町(下絵)」 秋田市立千秋美術館

平成10年6月、秋田で開催された東北大会に出席するため、秋田市を訪ねた際この美術館に立ち寄った。「描かれた秋田美人 お葉展」が開催されており、竹久夢二、藤島武二、伊藤晴雨、横尾忠則の絵が展示されていたが、特別陳列として小野小町の名画も出品されていた。その中に上村松園の「草紙洗小町(下絵)」も展示されていた。幸いその絵はがきを入手することが出来たので掲げてみる。

上村松圓の小町絵 上村松園「草紙洗小町(下絵)」 絵はがき


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