比叡山雪景色

謡蹟めぐり  大会 だいえ

ストーリー

比叡山の僧の庵室へ山伏姿の天狗が現れ、鳶に化けていた時子供に捕らえられたのを助けてくれた報恩に、何でも望みを叶えようと言います。
僧が、釈迦が霊鷲山で行った説法の光景を目のあたりに拝みたいと希望すると、天狗は快く承諾しますが、これは戯れに幻影を見せるまでの事だから、見ても本気になって信心を起こすなと注意し、目をふさいで待ち給えと言って消え失せます。
虚空に音楽が響き、仏の御声が聞こえるので僧が目をあけてみると、釈迦の法華経説法の光景が出現しました。僧は思わず天狗の言葉を忘れて随喜の涙を眼に浮かべ、一心に合掌礼拝してしまったので、帝釈天が、天狗が魔法によって信心の堅い僧を惑わしていると憤慨して天降ります。天狗は恐れをなし、魔術は破れ大会の光景は消えて、天狗は深い岩洞へと逃げ込んでしまいます。(「宝生の能」平成12年11月号より)

「十訓抄」について      (平16・2記)

謡本の「本文大意」の末尾にも記されているとおり、この曲は「十訓抄」の物語を脚色したものである。十訓抄第一にあるこの物語の冒頭には次のように記されている。

「 後冷泉院御即位の頃、天狗あれて、世の中騒がしけるけるに、比叡山の西塔に住みける僧、あからさまに京に出て帰りけるに、東北院の北の大路に、童部五六人ばかり集まりて・・・ 」とあって、謡本の「間狂言」にある物語へ発展してゆく。

それにしても「意外」が連続する愉快な物語である。
鳶に化けた天狗が空を飛ぶうちに、大きな蜘蛛の巣にひっかかり落ちてしまう。悪童どもに捕らえられあわやという時僧に助けられ、そのお礼に恩返しをしようと僧を訪ねるという発想に驚く。
また、望みのことがあれば即座にかなえるという天狗の言葉に、釈迦が霊鷲山で説法した時の場面をみたいという僧の回答も面白い。
さらに、天狗がお釈迦さまに変身しての迫真の演出に、本物のお坊さんが感激のあまり信心をおこして合掌礼拝するというハプニングが起る。
これではならじと仏法の守護神帝釈天が降臨し、天狗の幻術を破り天狗を徹底的に痛めつけ、天狗は谷底の祠に逃げ込む。

この「十訓抄」は世俗的説話集といわれ,それ以前に成立している史書や物語から教訓的な説話を282話集めて,次の10編に分類したものである。このことから「十訓抄」と名付けられた.編集したのは,大波羅左衛門入道と言われ.平安時代のものである。

第一   人に恵を施すべき事
第二   傲慢を離るべき事
第三   人倫を侮らざる事
第四   人の上を誡むべき事
第五   朋友を選ぶべき事
第六   忠直を存ずべき事
第七   思慮を専らにすべき事
第八   諸事を堪忍すべき事
第九   懇望を停むべき事
第十   才芸を庶幾すべき事

本曲の物語は、この中 「第一 人に恵を施すべき事」に分類されている。
比叡山の僧は殺されそうになっていた、鳶に化けた天狗を救ったおかげで、霊鷲山での釈迦の説法を見ることが出来た。しかし、これは天狗の幻術に惑わされているのだ。
一方天狗は命の恩人の僧に喜んでもらおうと、幻術で壮大な大会を演出するが、僧を惑わすものと帝釈天の怒りに触れて惨めな結果となる。
この説話、人に恵を施せば余慶があることを教えているようでもあり、しかし、結果は必ずしも良いことばかりではないことを教えているようにもとれる。
私はこの偽物を演じた天狗、偽物と知りつつも感動、信心し合掌礼拝した僧を憎む気にはなれない。

比叡山 大津市 (平16・2記)

ここでは舞台の「比叡山」の雪景色の写真と、僧が住んだという比叡山西塔の象徴、釈迦堂の写真を掲げる。
鳶に化けた天狗を救ったという「東北院」は「東北」の舞台ともなった所で、その写真は「東北」の項に掲げる予定である。

比叡山雪景色 比叡山の雪景色 大津市 (昭59.3)

釈迦堂 比叡山西塔の象徴 釈迦堂 (平10.4)


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