日吉大社

謡蹟めぐり  是界 ぜがい

ストーリー

中国の天狗の首領である是界坊は、自国において高慢の輩を残らず天狗道に誘い入れたので、次は日本の仏法を妨げようと日本へ渡ります。まず愛宕山の太郎坊を訪れ、相談の末、比叡山を襲う事にします。それについては不動明王の威力が恐ろしく、不安にもなりますが、やがて決心をして、太郎坊の案内で比叡山に赴きます。
比叡山の僧が勅命を受け悪魔退散の祈願の為、都へ急ぐ途中にわかに風が起こり天地震動して、是界坊が天狗本来の姿で現れます。そして僧を魔道に誘い入れようとするので、僧は悪魔降伏のため不動明王を念じました。すると明王は矜迦羅、制多伽両童子とともに現れ、悪魔の降伏に力を合わせたので、さすがの是界坊も力を失い地に落ちて、以後二度と日本に現れないことを誓って消え失せます。(「宝生の能」平成13年3月号より)

今昔物語と是界坊

この曲の出典は今昔物語巻二十「震旦天狗智羅永寿渡此朝語第二」という。佐成謙太郎著の「謡曲大観」に原文が載っているので、少し難解だが引用させていただく。

「 今は昔、震旦(注、昔の中国)に強き天狗有けり、智羅永寿(ちらようじゅ)といふ。此の国に渡にけり。
此の国の天狗に尋ね会て語て云く、「我が国には止事無き徳行の僧共数(あまた)有れども、我等が進退に懸らぬ者はなし。然れば此の国に渡て、修験の僧共有りと聞くに、其等に会て一度力競(くらべ)せむと思ふは何(いか)が可∨有き」と。
此の国の天狗此れを聞て、極て嬉(うれし)と思て答て云く、「・・近来可∨凌き者共有り教へ申さむ、己が後に立て御(おは)せ」と云て、行く後に立て、震旦の天狗も飛び行く。比叡の山の大嶽の石率都婆の許に飛び登て、震旦の天狗も道辺に竝居ぬ・・。
かくて、僧を待ち受けてゐると、余慶律師が山の千寿院から内の御修法行ひに下り、次で飯室の深禅僧正が下ったが、おそろしくて近づき得ず、次に下って来た山の座主横川の慈恵大僧正の小童部に搦め取られ、「汝は何者だ」と訊問せられて、
震旦より罷渡たる天狗也。渡給はむ人見奉らむと此に候ひつるに、初め渡給ひつる余慶律師と申人は、火界の呪を満て通給ひつれば、輿の上大に燃ゆる火にて見えつれば、其をば何かはせむと為る、己れ焼けぬべかりつれば、迯て罷去にき。次に渡り給ひつる飯室の僧正は、不動の真言を読で御しつれば、制多迦童子の鉄の杖を持て副て渡り給はむには、誰か可二出会一きぞ、然は深く罷り隠れにき。今度渡り給ふ座主の御房は、前々の如く猛き旱き真言も不二満給一ず、只止観と云ふ文を心に案じて登り給ひつれば、猛く怖しき事も無く、深くも隠さずして、傍に罷寄て候つる程に、此く被∨搦れ奉て悲き目を見給へる也。
といひ、散々に踏みひしがれて、僅かに危い命を助けられ震旦に立ち帰ったとあるに拠ったのであらうか 。」

日吉大社と太郎坊  (平15・11記)

曲中に出てくる地名、神社など他曲に掲げたものが多い。愛宕山、比叡山、横川中堂については「花月」参照。ワキに協力する神々のうち男山すなわち石清水八幡宮は「女郎花」、北野天満宮は「老松」、加茂明神は「加茂」を参照。松の尾明神は「松尾」で取りあげる予定。
ここではワキに協力する神として「山王権現」すなわち日吉大社と、ツレの太郎坊を祀る太郎坊宮の写真を掲げることとする。

日吉大社 山王権現 日吉大社 大津市坂本 (平15.3)

太郎坊宮 太郎坊主宮 滋賀県八日市市 (平13.11)


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